それは、旅先からの帰り道、大きな荷物を抱えて乗り換え駅に降り立った時のことでした。次の電車まで一時間ほど時間があったため、私は身軽になって駅ビルで買い物をしようと、一番近くにあったコインロッカーに大きなスーツケースを預けました。ガチャリと鍵をかけ、その小さな鍵をジーンズのポケットに滑り込ませた、はずでした。買い物を終え、意気揚々とロッカーの前に戻ってきた私は、ポケットを探って愕然としました。あるはずの鍵が、ないのです。ポケットというポケット、カバンの全ての収納部を探っても、あの冷たい金属の感触はありません。一瞬で血の気が引きました。あのスーツケースの中には、旅のお土産だけでなく、翌日の仕事で使う大切な資料も入っています。焦る気持ちを抑え、ロッカーに貼られたステッカーの番号に電話をかけました。事情を話すと、「担当者が向かいますので、四十分ほどお待ちいただけますか」と、落ち着いた声が返ってきました。その四十分が、これほど長く感じられたことはありません。行き交う人々をぼんやりと眺めながら、自分の不注意を何度呪ったことでしょう。もし、このまま荷物が取り出せなかったら。仕事はどうなる、お土産を楽しみにしている家族には何と言おう。最悪のシナリオばかりが頭を駆け巡りました。やがて、制服を着た男性スタッフが到着し、私の身分証を確認した後、手慣れた様子でマスターキーを取り出しました。ガチャリ、という音と共に扉が開いた時、私は心の底から安堵しました。スーツケースとの再会を喜びながら、私は違約金として四千円を支払いました。決して安い金額ではありませんでしたが、荷物が無事に戻ってきたことを思えば、必要な代償だと思えました。この一件以来、私はコインロッカーを使う際には、鍵をかけたらすぐにその鍵とロッカー番号をスマートフォンで撮影するという習慣を身につけました。
駅で鍵を紛失したあの日の一部始終