それは、締め切りに追われる慌ただしい朝のことでした。愛車のスタートボタンを押しても、うんともすんとも言わない。メーターには「キーが見つかりません」の非情な表示。すぐにスマートキーの電池切れだと判断した私は、引き出しの奥から買い置きのボタン電池を探し出し、急いで交換作業に取り掛かりました。マイナスドライバーでこじ開け、古い電池を外し、新しい電池をはめ込む。しかし、車に戻ってボタンを押しても、結果は同じ。全く反応しないのです。「まさか、故障か?」血の気が引き、頭の中はパニック状態。ディーラーに電話する時間もない。万策尽きたかと諦めかけたその時、ふと、ある可能性が頭をよぎりました。「もしかして…」。私はもう一度キーを分解し、先ほど入れたばかりの電池をよく見てみました。すると、電池の表面に、光の加減でかろうじて見える、極めて薄い透明のフィルムが貼られていることに気づいたのです。おそらく、新品の電池の電極を保護するための絶縁シートだったのでしょう。急いでいたあまり、全くその存在に気づいていませんでした。爪でそのフィルムを剥がし、再度電池をセットして車に戻ると、今度は何事もなかったかのようにエンジンはかかりました。あの時の、安堵感と同時に込み上げてきた自分の迂闊さに対する猛烈な恥ずかしさは、今でも忘れられません。この一件で私が学んだのは、トラブルに見舞われた時ほど、焦らず、基本に立ち返って一つ一つの手順を丁寧に行うことの重要性です。電池の向き、型番、そしてこの保護フィルムの存在。問題の原因は、複雑な故障などではなく、ごく単純な、しかし致命的な一つの見落としにあることが多いのです。もしあなたが同じ状況に陥ったら、私のこの間抜けな失敗談を思い出して、もう一度、その手の中にある電池をじっくりと見つめ直してみてください。
私の失敗談。電池交換で犯した些細なミス